【11】2016/06/18


「せんせー、最近忙しそうね」

ソファーに二人の男女が引っ付いて座っていた。そこにいるピンクの髪に花飾りを沢山つけている女性は、背の高い青年が着ている深緑のロングコートの裾を引っ張っている。

「…また、よくわからない者が来たらしいからな」
「でもせんせーがわざわざ出動するなんて、珍しいわよ」
「ディアは俺が不真面目だと言いたいのか」
「そんなことないわ!せんせーは凄いって知ってるもの!」
「なら、いい子にして待ってろよ」

せんせーと呼ばれている青年はディアの頭を撫で、すっと席を立った。

「…もう、行っちゃうの」
「浅葱のところにでも行ってこい。そう言えば、この前森に遊びに連れて行っていってもらっただろ」
「うん!浅葱くん本当に綺麗な人魚さんだったよ!」
「また帰ってきたら続きを教えてくれ」
「うん!」

二人の繋がっていた手が離れていく

「行ってくる」
「いってらっしゃい…モーリエル」

寂しそうな表情をしていたディアは笑顔で見送り、本名を言われたモーリエルは優しい笑みを浮かべて静かに扉を閉めた。




「モント」
「…ブラン」

街でターゲットを探している最中にモントはブランに呼ばれた。

「まだターゲットが見つからずにいるってことだな」
「うん、ブランもそうみたいだね」
「燈くん、しっかり仕事してるわけー?」
「ミレーさんも人のこと入れないんじゃないですか?」
「何ですって!」
「何だよ!」
「…こら、そこ止めろ」
「燈」

すぐに言い合いになってしまうこの二人を宥めながら、双子の二人は同じことを考えていた。
(すあまさんが連れてくるはずの人間が鍵になるはず)
その鍵を生かすために、出来ることを今すべきなのだ。

「燈くん、資料をもう一度貸して」
「はい、モントさんこちらです」
「…」
「どうだ、モント」
「彼を止めるためには、彼女を使うのが正しいかなって」
「そのリボンの子ー?」
「ミレーはどう思う」
「俺は、そんなことよりも、原因になってるやつをさっさと片付けていきたいところですね」
「両方採用する。ミレー、お前は俺と原因を排除しに行くぞ」
「わーい、行きます♡」
「モント、燈に後は任せる」
「わかった」
「わかりました」

ブランの的確な指示により、揉めることなく次の行動へと移すことが出来た。




「ここなのか」
「そうだぜ」

柚子野は鴉紅丸に連れてこられた場所は仕立屋のようだ。こんなところに本当にいるのか?

「…まぁ、入るか」

確認してないで、判断するのはおかしい。柚子野は一旦確かめることを決めたのだが、一歩足を踏み出そうとした時、ナイフが顔の横を通り抜ける。

「ごきげんよ、柚子野」
「…すあま」

【要】上層部トップと、【陽炎】上層部トップとの間に火花を散らす。

「やはり、私の勘は間違いなかったわ」
「俺がここに来ることでもわかったって言いたいっすか」
「えぇ、きっと柚子野のことだから優秀な妖を捕まえて、ここまでやってくると思ってたのよ。五鈴くんにそんな優秀な妖を探してもらってたわけよ」
「たまたまじゃないですか。俺はいつも単独行動をしてるって知ってるじゃないですか」
「私は勘とは言ったけれども、柚子野も忘れてはいないかしら?私の勘は、外れないのよ」

そうだ、すあまの勘というのは、外れない。それは、長年付き合いの俺が認める程だ。上層部をやっていけるだけの実力と隙のなさが、彼女の凄さでもある。

「す、すあまさん」
「あら、ごめんなさい。五鈴くん」
「え、えっと、俺はそろそろ邪魔ですか?」
「いいえ、そんなことないわ……あの鴉を捕まえて頂戴」
「は?……え!」
「おい!」
「…ご、ごめんね。キミを傷つけたりはしないから」
「鴉紅丸!」
「柚子野、無駄よ。彼はもう動けないの…五鈴くんはね、妖を操ることができるの」
「…まじっすか…」

まさか、ここでこんなことになるとは。だが、俺だって負けるわけにはいかない。

「もう一人の柚子野…かかってらっしゃい」

ドクンと、胸を打つ。

「柚子野、私と久しぶり運動しましょう?私、ここのところ退屈だったのよ。私に本気でかかってくる生命体は貴方くらいですもの」
「…」
「五鈴くん、後は任せるわね」
「え?」
「すあま…」
「さぁ、邪魔にならない所で暴れましょう、柚子野」

刀を握る柚子野は、別人になって、すあまに襲いかかりに来た。




「あれ?おかしいわね。さっき店の前で音がしたのだけど、誰もいないわ」

蛍は騒がしい声が聞こえたため、様子を見に店を出たのだが、誰も店の前には居なかった。

「…蛍?どうしたの」
「あら、雪咲来てくれたの」
「昨日のこと謝りたくて」
「気にしないでいいのに」
「…」
「私にはまだ言えないことなんでしょ」

蛍はじっと雪咲を見る。昨日から雪咲が消えてしまいそうで、怖い。

「僕は、…」

雪咲が口を開こうとした時、雪咲が何者かによって、後ろから気絶させられた。

「雪咲!」
「見つけたぞ!やはり、こいつだ」
「あ、貴方たち誰よ」
「へぇ、威勢のいいお嬢ちゃんだね」

数人の浪人が蛍から気を失った雪咲を連れて行こうとする。朱鷺を呼ばなければいけないと思った、けれど、それよりも体が動く。

「やめて!雪咲をかえして!」
「離れろ、怪我するぞ!」
「返して!」

男と女の違いにピクリともしない。こんなに女性が弱いだなんて思いたくなかった。
(誰が雪咲を守るだなんて言ったのよ)
(雪咲を、守りたいのに!)
視界がぼやけてきた。こんなところで泣いてたまるもんかと、必死に涙を引っ込めようとする。

「っち、埒があかねぇ」
「きゃ!」

ぐいっと手首を引っ張られ地面に振り落とされた。打ち所が悪かったのか足を捻ったようだ。

「…行くぞ」

もうだめだ。そう思った

「…はぁ、面倒」
「え?」

そこからは早業だった。鞭を自由自在に操る青年は浪人を次々と雪咲から引き離し、頭に血が上った浪人が青年に向かって刀を振り下ろそうとするが、優雅にそれを避ける。まるで、魔法のように自由自在に動く鞭をただ見ているしかできなかった。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

オッドアイの青年に、捻った足を優しく手のひらで包み込むと、鞄から変わった色のした薬品を取り出し、てきぱきと布にその薬品を湿らせ、足に巻きつけてくれた。冷たくて、すーっとして気持ちがよかった。

「モントさんが調合した薬品です。すぐ治りますよ」
「燈くん、雪咲さんもお願い」
「わかりました」

目を瞬きした。やはり夢ではないようだ。

「えっと、あの」
「蛍さん」
「はい!」
「後は君次第だよ。君は彼を守りたいんだよね」

なんで名前を知ってるの、と聞く前に、モントは蛍に語りかける。

「一度しか言わない」
「ま、待って」
「待てない。時間がないんだ」
「時間がない?」
「よく聞いて、君は彼を救いたいと思うの?」
「…」
「君の覚悟を聞きたい」
「私は、救いたいの。雪咲が心から安心して暮らせるようにしたい」
「なら、教えるよ…君はこれからーー」

蛍は、雪咲の手をぎゅっとにぎって、離さなかった。




「おい!まだ、雪咲は来ないのか!」
「申し訳ございません!」
「この、役立たずが」

豪華な屋敷の主人は激怒していた。使用人達は主人の姿に怯え、震えている。
いつからこの主人はこのような姿に変貌してしまったのか。

「おい!屋敷中にいる者を全て連れて参れ!」
「…」
「どうした!いないのか!」

主人の声に誰もやってこない。
おかしい。何かがおかしい。

「おい!無礼を重ねるな!」
「何が、無礼だってー?」

カチっと、拳銃を構える音が聞こえた。
「お、お前は誰だ」
「アンタに名を教えたくないね」
「…おい!こいつを誰が捕らえよ!」
「こないと思うよ?…だって、俺の愛しの上司さんが全員コテンパンにやっつけてるんだからー♡」

拳銃は主人の頭の上にある。
動けないのだ。
「ねー、もういいんじゃないの?」
「…」
「アンタは、自分が手に入れた女を自分ものにしたかった。それ故に側にいる子に妻を取られたと憎み、火事と見せかけて、子を殺そうとした。けど結果、生き延びたのは、憎かった子一人。欲しかった女は、一生手に入らないところに行ってしまった。アンタは馬鹿だよ。それで、やめておけば良かったのに、子に恨みを持ちながらも、瓜二つの顔という理由で再び手に入れようだなんて考えるだなんてね。」

「虫酸が走る」
「や、やめてくれ、俺は」
「まだ、言いたいことは沢山ある、けどね、アンタのその感情は、もう見たくないんだよね」
「…っ」
「バイバーイ♡」

銃弾の音が大きく響き渡った。

To be continued