【0】2016/05/31

ようこそ、時の管理所【要】へ。
僕はモント、初めましてだね。
ん?驚いているの?
まぁ仕方ないか、とりあえず、これに着替えて、その格好だと要らしくないから。
君もここにやってきたということは、前世で許されない闇を抱えてやってきたということか…。
…まだ頭が回ってないみたいだね。
そろそろシャキッとしてくれないと困るんだけど。
君はこれから僕の部下になるわけなんだから。

第×次元世界。
モノトーンな色の無い世界に住む人たち…いや、人と呼べるのか定かではない。     
人の形をしていて、感情もある。
けれど、死ということを許されない、いわゆる不死身の体を持った生命体というのが正しいと言える。
そんな生命体が存在するこの世界は、普通の次元世界と大いに異なる部分はこれだけでない。

彼らは、他の次元に足を踏み入れることができるのだ。

「君の名前は?」
「…××」
「そ、ならこれからすあまさんのところに行くよ。あ、すあまさんは僕の上司ね」
「…×××」
「この世界が慣れない?嫌でも慣れるよ。歳をとらない、毎日寝ても寝た気がしない、ご飯を食べても食べた気がしない、そんな世界だよ。朝と夜があっても希望という明日がないという人もいるけどね」
「…×××」
「え?ここは天国?いや、そんないいところに見えるの?君は記憶があるだろう。そんな記憶を抱えて天国に行けるわけない」

ここにやってきたばかりの青年とモントという彼は建物の中に敷かれた絨毯の上を歩き続ける。
とても気が遠くなるような長い廊下に、まるで青年が暮らしていた場所とは異なる世界であるということを思い知らされる。

「…君は、僕たちと同じように前世で闇を抱えてここにやってきた。そして今日から君は、なぜここに来てしまったかの意味を探すんだよ。他次元の世界の歪みを修復しながらね」

何を言っているのか、理解するのには時間がかかると青年は思った。

「…要に選ばれたんだ、君は選ばれた人材だってことの自覚は持ってね」

彼は笑っていたが目は笑っていなかった。


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【1】2016/05/31

ある日の要部署で、事件が起こった。

「うわぁぁぁあーー!!」
「…五月蝿い」

会議室に書類で頭を叩いた音が響く。相当大きい音が響いたと思う。

「…い、痛」
「痛くしたんだ」
「ブランさん、最近オレに対してあたりがひどいんじゃないですか」
「無視したら面倒事が増えるからな。さらに五月蝿いのは御免だ
「…ブランさん!」
「抱きつくな!邪魔だ!」
「…相変わらず、仲良くしてるわね、ミレーとブランは。私たちも仲良くしましょうか、モント君和菓子はいかがかしら?」
「…あ、すあまさん。頂きます」

要上層部の会議室では、いつものように賑やかに会話を繰り広げていた。毎日こんな調子だから飽きないのかというと、飽きないらしい。

「…あら、そう言えば、燈はどうしたのかしら?」
「そう言えば、遅いですね。第6次元での任務はもう終わっていてもおかしくない時間だと思うけど」
「…また泣いてるんですよーきっと♡」
「ミレー、そんな事を言って、あなたが燈くんを探しに行ってくれるのかしら?」
「そんなー嫌ですよー♡」
「…まぁすぐに帰ってくるだろう」

ブランは机の上にある書類を片付けながら、ふとモントを見る。モントはブランの愛おしい双子の弟であるが、ブランと違い表情が柔らかく、兄よりも感情を出すのが上手い。故にモントが不安な顔をすれば、ブランも少しは不安な顔を見せようとする。とはいえ、全く弟以外には無関心なブランには作り物の表情になってしまうのだが、こうやって弟の顔を見ては、場の雰囲気に合わせる事を長い年月をかけて身につけた。

「…帰ってきたみたいね」

すあまはおっとりとした雰囲気を持ちながら、鋭い察知能力に誰よりも優れている。流石、要上層部の上司といったところであろう。

「…只今戻りました」
「…やっぱりー!泣き跡発見!」
「あんた、またそうやって言うんだね!」
「アンタって、俺はミレーなんだけどー」
「ミレー、後輩をいじめるのはおよしなさい」
「ちぇー」

燈はこの部署の中では、まだまだ新入りの位置に属している。新入りとはいえ、上層部に入ってもう何十年も働いているのだけれども、燈の次に上層部にやってくる人がいないため、そう呼ばれている。

「また、自然に泣いちゃったんでしょ」
「はい、俺だって泣きたくて泣いてる訳ではないんです」
「相手の事を思って泣けることはいいことだと思うわ。素敵よ、それに可愛いわ」
「また、すあまさんはー」
「とはいえ、仕事は終わったのか?」
「ブランさんみたいに速くはないですが終わりました。あ、後すあまさんに頼まれた和菓子買ってきましたよ。これで合ってますか?」
「あー!もう、それよ!燈くん」

燈の手にある袋を取る、すあまさんは満面の笑みで和菓子を見ている。上司であるすあまはあまり他次元に行くことは少ないためこうやって部下に大好きな和菓子を頼むことがある。でも今回の遅刻といい、なかなか手に入りにくいと言われている和菓子を手に入れたといい…なんだか怪しい。

「…アンタ、何か隠してない?」

ミレーが不審な顔をして、燈の頭に手を乗せる。燈の顔にはまさにギクッといった、効果音が目に浮かぶような表情をしていた。

「その和菓子がなかなか手に入りにくいっていうものだとしても、今日それを持ってこいとはすあまさんいってないし、後、今日は大事な会議でしょ。わざわざそうやってすあまさんの機嫌とりするとか、何か違うことしてたんでしょ〜」
「し、してません」
「声震えてるよ」
「震えてません!」
「…ふーん、で、何」

ミレーは明るく通称構ってちゃんだが、最強だと言われるブランの部下であるだけに実力者である。また一度仕掛けた喧嘩や、討論に敵う者など、少ない。まるでライオンとネズミのように見える。

「…実は、第6次元の後、第1次元に行ってきまして」
「燈、第1次元に行って何してきたの?」
「…少し気になる人が居たので、様子を見てきました」
「様子を?何でまたそんなことをしたんだ」
「モントさん、ブランさん。この書類みて下さい」

燈が持っていた書類の上には一枚の写真が貼られ、中身は次の任務の詳細が記されていた。

「…梅小路雪咲 -うめだこうじ ゆら-」


次のターゲットは彼だと燈は言った


To be continued